由布市「オレンジカフェ由布」現地レポート

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     オレンジカフェ由布は、大分県で最も早く始まった認知症カフェです。介護老人保健施設・健寿荘の施設長・増井玲子医師が中心となって2013年より運営されてきました。

     

     今回、わたくしが訪れたのはカフェ開催日ではありませんでしたが、増井先生に直接お話を伺う機会をいただき、さらに様々な資料も見せていただきました。また『ようこそ、認知症カフェへ 未来をつくる地域包括ケアのかたち』(武地一著,ミネルヴァ書房,2017年5月)に増井先生が寄稿された文章からもカフェの様子が推察できるので、その概要を以下にご紹介します。

     

     

     「オレンジカフェ由布」は基本的に第1・第2・第3土曜に開催されます(ただし土曜日が第5週まである月は、第3土曜ではなく第4土曜が開催日になります)。会場となるのはJR久大本線・向之原駅から徒歩3分の「はさま未来館」。大ホール・集会所・図書館などが一体となった複合公共施設です。

     

     

     

    (増井先生提供写真)

     

     カフェの参加者は、午前10時に中研修室という部屋でスタートミーティング(自己紹介など)を行います。その後は専門職やボランティアが認知症ご本人や家族をフォローするかたちで比較的自由に、それぞれの参加者がやりたいことをして12時まで過ごします。絵を描く方や、生け花を楽しむ方、トランプで遊ぶ方もいれば、散歩に出る方や、未来館に併設されている図書館で読書をする方もいるそうです。写真は未来館の花の世話をする参加者の様子です。

     

     このようにそれぞれがやりたいことをするカフェは、参加者全員でひとつのことをするカフェに比べ、スタッフやボランティアの習熟を必要とする高度な取り組みです。認知症ご本人の体調やその日の気分に寄り添いながら、必要と見ればピアサポートや専門職の相談ができるように場を整えるなど、「あらかじめ予定を固めすぎない」ゆとりある態勢が肝心になります。

     

     よく言われる「フラットな関係」への留意についてもお聞きしましたが、服装はみないわゆる私服で、エプロンや名札はつけていないということです。さらに印象的だったのは専門職のスタッフであっても身内に要支援・要介護の家族がいるような場合、介護の先輩として参加者に教えを請う姿勢も大切だというお話でした。一方的な「お世話する側・される側」という関係にならないよう、カフェの時間を楽しく過ごすためのさまざまなノウハウがあるようです。

     

     増井先生には「認知症の人を介護する家族支援としての認知症カフェの意義」という論文を読ませていただきました。そこには若年性認知症当事者・A氏夫妻のエピソードとして、残存能力への気づきから、二人の関係の再構築、新たな社会的役割の獲得に至る様子が認知症カフェへの参加歴とともに詳細に報告されています。その論文で興味深かったのは、認知症カフェへの参加を躊躇していた時期についてのこと。A氏夫妻は医師から認知症カフェを勧められても実際に参加するまで数ヶ月の躊躇があったそうです。その理由として「『認知症カフェに行ったら認知症であることを認めるようで怖かった。本人が失敗したらかわいそう』と考えた」と書かれています。その後、まずA氏夫妻の娘が参加し、様子がわかったところでご本人の初参加につながりました。このように結果的には認知症カフェに適応でき、参加による効果が大変高かった方でも、初めて足を運ぶまでには大きな壁を感じるものだということは、すべての関係者が心しておくべきことだと思います。まだ参加していない人こそが最もカフェを必要としている人なのかもしれません。

     

     「オレンジカフェ由布」では定例のカフェの他に出張カフェも行っています。これは認知症に関する講演会などが行われる際、家族の方が安心して参加できるように、同じ施設の中でカフェを開催し、認知症ご本人の方にはそちらで過ごしていただいくという取り組みだそうです。このタイプはこれまで8回開催し、最近では100名近い利用者があるとのことです。

     

     出張カフェと銘打つ取り組みはもう一つあり、それが「オレンジカフェ由布イン医学部祭」です。こちらは10月に開催される大分大学医学部の学園祭のなかで行われるカフェで、看護学部の学生と当事者・介護家族が一緒になって運営にあたります。前掲書『ようこそ、認知症カフェへ』のなかでも詳しく触れられているので、ここでは学生たちが趣意書を作って協賛企業を集めた際のうちわの写真を紹介します。本のなかではと名前が伏せられていたコーヒーチェーンA社の名前も載ってます。こうやって人々・企業を巻き込んでいくことは、認知症になっても暮らしやすい社会を作る上で大変大きな意味があると思います。

     

     

     精神科医の増井玲子先生にとって、認知症と長く関わることになった原点は、平成元年に参加した国立菊池病院(熊本県)での泊まり込みの研修での体験だそうです。特に「認知症の人はハンディキャップを持ちながら一生懸命努力している姿として見る」という室伏君士先生の考え方は、いまだにまったく古びない、とても素晴らしいものだったと振り返っておられました。菊池病院の研修については滋賀県の藤本直規医師も著作で触れていますが、30年たっても多くの医師たちを強くモチベートしつづけていることがわかります。

     

     意欲的な挑戦を続けてきた「オレンジカフェ由布」は、普通のカフェ3つ分くらいの経験値を積み重ねてきたという印象を受けました。今回、その一端が武地先生の著作で紹介されたことは全国の認知症カフェ運営者にとって大変有益な情報となることは間違いありません。ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。

     

     

    追補

    5月13日、オレンジカフェ由布では「若年性認知症子供世代の会」という新しい交流が始まりました。これは若年性認知症当事者の子供たちがケアの枠外に置かれがちである現状を鑑み、専門職による相談や、本人同士のピアサポートを期待する取り組みだそうです。実際、初回の集まりを終え、本人同士の交流が順調に始まったようで、増井先生も手応えを感じておられるようでした。このような大事な取り組みを多くの方に知っていただけるといいと思います。

     

     

    「オレンジカフェ由布」

    開催日時:第1土曜・第2土曜・第3土曜(土曜が5回ある月は、第3土曜に代わり第4土曜)、10時から12時まで

    開催場所:由布市挾間町挾間104-1 はさま未来館

    参加費:100円

    問い合わせ:097-583-0051(健寿荘)

     

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